東京高等裁判所 平成10年(行ケ)51号 判決 1999年4月27日
東京都千代田区丸の内1丁目2番1号
原告
関東電化工業株式会社
代表者代表取締役
水野正雄
訴訟代理人弁護士
鈴木修
同
那須健人
同
弁理士 狩野剛志
大阪府茨木市丑寅1丁目1番88号
被告
日立マクセル株式会社
代表者代表取締役
佐藤東里
訴訟代理人弁理士
浅村皓
同
小池恒明
同
歌門章二
同
小堀貞文
同
岩井秀生
主文
特許庁が平成8年審判第19262号事件について平成9年12月26日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第1 請求
主文と同旨の判決
第2 当事者間に争いないの事実
1 特許庁における手続の経緯
被告は、名称を「磁性金属粉の製造法」とする特許第1883776号発明(昭和57年3月16日出願、平成6年11月10日設定登録。以下「本件特許」といい、その発明を「本件発明」という。)の特許権者である。
原告は、平成8年11月15日、本件特許を無効とすることについて審判を請求した。
特許庁は、この請求を同年審判第19262号事件として審理した結果、平成9年12月26日、審判請求は成り立たない旨の審決をし、その謄本は、平成10年1月21日原告に送達された。
2 本件発明の要旨
オキシ水酸化鉄ないし酸化鉄粉末をペレット状に成形したのち加熱還元して鉄を主体とするペレット状の金属粉を得、これを液相ないし気相中で酸素ガス量を調節しながら酸化処理して上記ペレット状金属粉の粒子表面に酸化被膜を形成し、その後所定の粒度に粉砕することを特徴とする磁性金属粉の製造法。
3 審決の理由
審決の理由は、別紙審決書の理由写し(以下「審決書」という。)に記載のとおりであり、請求人(原告)主張の無効理由1(進歩性、新規性の欠如)及び無効理由2(特許法36条4項、5項違反)は、いずれも理由がなく、本件特許を無効とすることはできないと判断した。
第3 審決の取消事由
1 審決の認否
(1) 審決の理由Ⅰ(手続の経緯・本件発明の要旨。審決書2頁3行ないし17行)は認める。
(2) 同Ⅱ(請求人の主張。審決書2頁19行ないし6頁11行)は認める。
(3) 同Ⅲ(被請求人の主張。審決書6頁13行ないし16行)は認める。
(4) 同Ⅳ(当審の判断)のうち、無効理由1についての判断(審決書7頁1行ないし27頁12行)について
<1> 引用例の記載事項の認定(審決書7頁1行ないし15頁13行)は認める。
本件発明の課題等の説明(審決書15頁16行ないし17頁13行)は認める。
<2> 甲第3号証(審決時甲第1号証)についての判断(審決書17頁14行ないし20行)のうち、17頁14行から19行「示す」までは認め、その余は争う。
甲第4号証(審決時甲第2号証)についての判断(審決書18頁1行ないし19頁1行)のうち、審決書18頁1行ないし8行については、甲第4号証には、本件発明の構成要件である、「ペレット状の金属粉を得(る)」点が記載も示唆もされていないことは争い、その余は認める。審決書18頁9行ないし19頁1行については、甲第4号証に記載のものは、酸化鉄原料を粉砕後成形し、加熱還元し得られた還元鉄を粉砕して、容易に粉砕され原料の粒度に類似の粒度の鉄粉を製造するというものであることは認め、その余は争う。
甲第5号証(審決時甲第3号証)及び甲第6号証(審決時甲第4号証)についての判断(審決書19頁2行ないし15行)のうち、甲第5号証には、酸化ガスを含有する不活性ガス雰囲気中もしくは減圧酸素雰囲気中で、鉄を主体とする金属磁性粉末の造粒物を酸化処理し、上記粉末の粒子表面に酸化被膜を形成することが記載され、また摘示へによれば、甲第6号証には、金属粉末を有機溶媒に懸濁し、これに酸素を含むガスを吹込み、該金属粉末の表面に酸化物層を形成させ金属粉末を安定化することが記載されていること(審決書19頁2行ないし10行)は認め、その余は争う。
まとめ及び効果についての判断(審決書19頁16行ないし20頁13行)は争う。
<3> 甲第8号証(審決時刊行物1)及び甲第9号証(審決時甲第5号証)の記載事項のまとめ(審決書20頁14行ないし21頁10行)は認める。
本件発明と甲第8号証に記載のものとの対比(審決書21頁11行ないし22頁10行)のうち、甲第8号証にペレット状の金属粉を酸化処理する旨の記載がないこと(審決書21頁15行ないし18行の一部)、及び甲第8号証に記載のもので、オキシ水酸化鉄ないし酸化鉄粉末の粉末形態が顆粒が混じったものは加熱還元するオキシ水酸化鉄ないし酸化鉄粉末の粉末形態及び酸化処理する金属粉末の粉末形態がペレット状の本件発明と相違し、また甲第8号証に記載のもので、オキシ水酸化鉄ないし酸化鉄粉末の粉末形態が顆粒からなるものは酸化処理する金属粉末の粉末形態がペレット状の本件発明と相違する(審決書22頁2行ないし10行)ことは争い、その余は認める。
まとめ(審決書22頁11行ないし13行)は争う。
<4> 甲第10号証(審決時刊行物2)の記載事項のまとめ(審決書22頁14行ないし23頁2行)は認める。
本件発明と甲第10号証に記載のものとの対比(審決書23頁3行ないし15行)のうち、甲第10号証にペレット状金属粉の粒子表面に酸化被膜を形成する旨の記載がないこと(審決書23頁12行ないし15行の一部)は争い、その余は認める。
まとめ(審決書23頁16行ないし24頁1行)のうち、乾燥ケーキは濾過により濾材面上に形成する固体堆積物であることは認め、その余は争う。
<5> 甲第11号証(審決時甲第6号証)、甲第21号証の1、3(審決時甲第7号証の1)及び甲第21号証の2(審決時甲第7号証の2)の記載事項のまとめ(審決書24頁2行ないし25頁6行)は認める。
本件発明と甲第11号証に記載のものとの対比(審決書25頁7行ないし19行)は認める。
甲第11号証との同一性のまとめ(審決書25頁20行ないし26頁5行)は争う。
甲第11号証の技術的思想についての判断(審決書26頁6行ないし27頁3行)のうち、26頁6行から16行「れる」までは認め、その余は争う。
効果についての判断(審決書27頁4行ないし7行)及びまとめ(審決書27頁8行ないし12行)は争う。
(5) 同Ⅳ(当審の判断)のうち、無効理由2についての判断(審決書27頁14行ないし30頁9行)は認める。
(6) 同Ⅵ(まとめ。審決書30頁11行ないし13行)は争う。
2 取消事由
審決は、無効事由1(進歩性、新規性の欠如)の点についての認定、判断を誤ったものであるから、違法なものとして取り消されるべきである。
(1) 取消事由1(甲第3ないし第7号証に基づく容易推考) 審決は、本件発明は甲第3ないし第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない(審決書20頁10行ないし13行)旨判断するが、誤りである。
<1> 審決は、甲第3号証には本件発明の構成要件が記載も示唆もされていない(審決書17頁19行、20行)旨認定するが、誤りである。
甲第3号証(特開昭53-114769号公報)の特許請求の範囲には、「針状晶酸化第二鉄粒子を出発原料とし、該出発原料を還元性ガス中で加熱還元して得られた金属鉄を主成分とする針状晶金属磁性粒子を」と記載されているが、この記載は、本件発明の構成要件のうち、「酸化鉄粉末を」、「加熱還元して鉄を主体とする」、「金属粉を得(る)」と重複する。したがって、金属磁性粒子粉末を製造するために原料を加熱還元することは、本件発明の出願以前から公知である。
<2>(a) また、審決は、甲第4号証(特公昭37-16405号公報)には、本件発明の構成要件である、「ペレット状の金属粉を得(る)」点が記載も示唆もされていない(審決書18頁4行、5行、8行)旨認定するが、誤りである。
甲第4号証には、原料を成形後還元して得られるペレット状の金属粉の例として、「一例として加熱炉スケールを原料として製した培焼ペレットと培焼しない生ペレットの両者を850℃で水素により還元後ボールミルで粉砕した結果を次表に示す。」(1頁右欄21行ないし24行)と記載されている。この記載は、原科をペレット状に成形した後加熱還元してペレット状の金属粉を得たことを前提として、これをボールミルで粉砕したことを示している。したがって、甲第4号証には、還元後にペレット状の金属粉を得ることが開示されている。
(b) 審決は、甲第4号証に記載のものの課題は、粗砕後ボールミルで粉砕すると容易に粉砕され原料の粒度に類似の粒度の鉄粉を得ることにあるから、甲第4号証に記載のものは、緻密な酸化被膜を有してかっ磁気特性上も安定した磁性金属粉を得ることができる新規かっ有用な磁性金属粉の製造法を提供することを課題とする本件発明と課題を相違するものであり(審決書18頁9行ないし16行)、甲第4号証に記載のものは、本件発明の前記知見に基づく本件発明と技術思想を相違するものである(審決書18頁20行ないし19頁1行)旨認定するが、誤りである。
甲第4号証は、単に還元した原料の粉砕を容易にする鉄粉の製造法を提供することを課題とするのではなく、還元速度及び還元して得た鉄粉の安定性の面から鉄粉を製造する実用上有利な方法を提供するものである。すなわち、甲第4号証では、鉄鉱石又はそれに準ずる酸化鉄原料を還元性ガスで還元して鉄粉を製造するに際して、「あらかじめ原料を粉砕しこれの加熱還元中に生成金属鉄の焼結により粘着しないような条件で還元する方法」と「原料をそのままか、あるいは粉砕後適当な形状に成形して還元し、還元後粉砕して所要の粒度にする方法」を挙げた上で、「一般に還元性ガスで還元して製造した還元鉄は展性をもつため還元後の粉砕は還元前の粉砕より困難となるから粉砕の点では前者の方が有利である」と指摘し、しかし、「還元の点から見ると、前者は生成金属鉄の焼結を防ぐ還元温度を高くできず、従って還元速度が遅いこと及び還元し得た鉄粉が非常に酸化し易く不安定なため、安定化の処理を必要とし、後者にくらべ還元技術がむずかしい。従ってもし還元後の粉砕が容易に行えるならば後者の方法の方が実用上有利であって本発明の主眼もここにある。」と指摘している(1頁左欄6行ないし19行)。また、甲第4号証では、天然の鉱石をそのまま還元するのに比べ、鉱石を粉砕して還元した方が還元後の粉砕が容易である旨を指摘し(1頁左欄30行ないし34行)、還元反応及び原料の品位向上のために原料の粉砕精選が不可欠であるとしながらも、「実際問題としては微粉鉱石に還元ガスを送ると、通気抵抗が大きく吹き抜け等を生じて良好な還元状況を得ることが出来ない」として、微粉鉱石を還元する方法として「適当な形状に成形して還元」する方法を明示している(1頁左欄35行ないし右欄12行)。
したがって、甲第4号証が「原料を粉砕後、成形し」との構成要件を設けたのは還元状況、還元速度、還元後の粉砕容易性及び還元後の鉄粉の安定性の点から実用上最も有用な鉄粉の製造方法を提供するためであり、甲第4号証が単に還元後の粉砕の容易性を技術課題とするのであれば、このような構成要件を設ける必要はなかったものである。
そして、鉄が磁性体の範疇に含まれることは周知である(甲第7号証)。
したがって、甲第4号証は、磁気特性上安定した磁性金属粉を得るとする点で、本件発明と技術課題を共通にし、かつ、酸化鉄粒子を適当な形状に成形し、加熱還元した後に粉砕するという点で共通の技術思想を有するのであるから、甲第4号証は「本件発明と課題を相違する」とした審決の認定は誤りである。
(c) 被告は、甲第4号証は安定化処理を行うことに関し、逆方向の開示をしている旨主張するが、甲第4号証記載の技術で酸化処理がされていないのは、純鉄の鉄粉を処理、製造する過程で鉄粒子表面が徐々に酸化されるため、あえて酸化処理を行わなくても酸化処理をしたと同様の安定化が得られるためであり、被告の上記主張は理由がない。
<3> 審決は、甲第5及び第6号証の各々には、本件発明の構成要件である、「オキシ水酸化鉄ないし酸化鉄粉末をペレット状に成形したのち加熱還元して鉄を主体とするペレット状の金属粉を得」る点が記載も示唆もされていない(審決書19頁11行ないし15行)旨認定するが、誤りである。
甲第5号証(特開昭56-55503号公報)には、特許請求の範囲として「鉄を主体とする金属磁性粉末もしくはその造粒物を酸化処理し」と記載され、かつ、発明の詳細な説明に、「原料の鉄を主体とする金属磁性粉末としては、・・・が挙げられるが、この発明方法では、これら粉末をペレット化したもの、すなわち造粒物でも支障なく用い得る。さらに、これらの原料は、通常オキシ水酸化鉄ないし酸化鉄を出発原料として加熱還元によって製造され、」(2頁右下欄12行ないし3頁左上欄3行)と記載されている。これらの記載は、甲第5号証では、オキシ水酸化鉄ないし酸化鉄粉末をペレット状に成形したのち加熱還元して鉄を主体とするペレット状の金属粉を得ることを意味している。
また、甲第5号証に記載のものは、特許請求の範囲の記載からも明らかなとおり、「耐蝕性に優れた金属磁性粉末の製造」を目的とする点で、還元後の鉄粉の安定性の観点から実用上有用な鉄粉の製造方法を提供する甲第4号証記載の技術と共通の技術課題を有し、かつそのような課題の解決として「金属磁性粉末もしくはその造粒物を酸化処理し、上記粉末の粒子表面に酸化被膜を形成すること」を提供しているのである。
さらに、甲第6号証(特公昭56-28961号公報)に記載のものは、「金属粉末の表面に緻密な金属酸化物膜を形成させて金属粉末を安定化する方法」(1頁右欄27行、28行)を提供する点で、その技術課題は甲第5号証のそれと共通しており、ただ、甲第5号証記載の技術では酸化処理を気相中で行うのに対し、甲第6号証では酸化処理を液相(酸性基を持たない有機溶媒)中で行う点が異なるだけである。
したがって、審決の上記認定は誤りである。
<4> 以上のとおりく甲第4号証は、磁気特性上安定した磁性金属粉を得るという技術課題及び酸化鉄粉末を適当な形状に成形して加熱還元し、粉砕することで磁性金属粉を製造するとする技術思想の点で、本件発明と共通し、かつ、甲第5及び第6号証は、いずれも加熱還元した金属粉末を酸化処理して該金属粉末の表面に酸化被膜を形成することで磁気特性上安定した磁性金属粉を得るとする点で、本件発明と共通する。
したがって、本件発明は、甲第3ないし甲第5号証に記載のものに基づき、あるいは甲第3、第4及び第6号証に記載のものに基づき、容易に想到することができるものである。
(2) 取消事由2(甲第8号証との同一)
審決は、本件発明は甲第8号証に記載された発明であるとすることができない(審決書22頁12行、13行)旨判断するが、誤りである。
<1> 審決は、本件発明はペレット状の金属粉を酸化処理した後所定の粒度に粉砕するのに対し、甲第8号証にはこの点が記載されていない点で相違する(審決書21頁15行ないし18行)旨認定する。
しかしながら、甲第8号証(特開昭50-93854号公報)は、「ペレット状の金属粉」を「酸化処理」することを示唆している。また「粉砕」することは、甲第8号証に明示されるまでもなく、金属粉末を製造する際に不可欠の工程であり、当業者には周知であったものである。したがって、審決の上記認定は誤りである。
(a) すなわち、本件発明は、「ペレット状の金属粉」でいうペレットの大きさを「通常0.1~200mm」とする(甲第2号証3欄30行、31行)。これに対し、甲第8号証では、「第2図は還元速度が温度Tに左右されることを2種の異つたα-FeOOH粉末A及びBについて示す。・・・多数の実験において、500~1000μm・・・及び300~500μm・・・の粒径の篩分を用いる」とされている(2頁左下欄8行ないし17行)。1mmは1000μmを指すから、甲第8号証に記載の上記実験にて用いられたとする水酸化鉄の粒径は、いずれも本件発明でいうペレットの大きさの範囲に含まれる。
さらに、甲第8号証では、上記の記載に続き、「ここに「粉末」と称するのは本発明の範囲内で針状の不純物添加したα-FeOOHを製造する際に生ずる如き顆粒を含むものとする」(2頁左下欄末行ないし右下欄3行)としている。後記のとおり、甲第8号証記載の「顆粒」と本件発明の「ペレット」とは、その構成及び大きさの点で同一である。よって、甲第8号証では、本件発明でいう「ペレット状の金属粉」を用いることが示唆されている。
なお、従来から磁性金属粉の製造に用いられた原料たるオキシ水酸化鉄は、フレークとして得られていたのであり、ペレットとは、このフレークを円筒形の穴から押し出して形を円筒状にしただけのものであり、本質的に同じ物である。磁性金属粉の製造に当たり、原料であるオキシ水酸化鉄をフレーク状のまま使用するか、ペレット状とするかは、当業者が適宜選択するものであり、ペレット状とすること自体珍しいものではない(甲第12号証(特公昭52-19541号公報)参照)。
被告は、甲第8号証の顆粒と本件発明のペレットでは壊れ性などの物理特性が相違すると主張するが、還元することにより、水分子や酸素原子の脱離によってペレット内部に微細な孔路が形成されるためには、加熱が均一かつ効率よくペレット内部へ浸透するよう、また粉末の針状性が保持されるためにも、ペレットの硬さには自ずと限界があるはずで、このようなペレットの硬度と顆粒の壊れ性に相違があるとは到底考えられない。
(b) 次に、甲第8号証には、「第3図は粉末A及びBがもはや発火性でなくなった(40℃以下又はこれと等しい温度でN2/O2により安定化された)後の上記粉末に関する」(2頁右下欄4行ないし6行)との記載があり、この記載は、還元処理された結果一旦は発火性となった粉末A及びBが、窒素/酸素(N2/O2)混合ガスにより酸化処理され、もはや発火性でなくなった状態で安定化されたことを意味するものである。よって、甲第8号証では、本件発明の構成要件である「酸化処理」についても示唆されている。
また、前掲甲第12号証においては、加熱還元して得られた鉄を主体とするペレット状の金属粉を気相中で酸化処理している(5欄28行ないし31行、7欄26行ないし30行)。
加熱還元に先立ち、原料をペレット化することは、当業者にとって常識的なことである(甲第22ないし第24号証)。
(c) さらに、「粉砕」といった工程は、原料を還元し(場合によっては粒子表面に酸化被膜を形成し)た後に即座になされなければならないというものではなく、磁気テープ等の磁気記憶媒体の材料として使用するまでのうちにされれば足りるのであるから、その意味で磁気粉末を製造するのに必然的な過程であり、あまりにも当然なことである。
<2> また、審決は、甲第8号証に記載のもので、オキシ水酸化鉄ないし酸化鉄粉末の粉末形態が顆粒が混じったものは、加熱還元するオキシ水酸化鉄ないし酸化鉄粉末の粉末形態及び酸化処理する金属粉末の粉末形態がペレット状の本件発明と相違し、また甲第8号証に記載のもので、オキシ水酸化鉄ないし酸化鉄粉末の粉末形態が顆粒からなるものは、酸化処理する金属粉末の形態がペレット状の本件発明と相違する(審決書22頁2行ないし10行)旨認定するが、誤りである。
甲第8号証に記載の「顆粒」の語について、これを特別の意味に解すべきとする記載も示唆もしていないことから、一般的な意味である「粉体を造粒した粒で、粒径がおよそ100~1000μのもの」(甲第9号証一新版化学工学辞典)と解すべきである。そうすると、粉体を造粒したという点では、甲第8号証に記載された「顆粒」と本件発明の「ペレット」で差異はない。
また、本件発明では、ペレットの大きさとして「通常0.1~200mm」としているが(甲第2号証3欄30行、31行)、本件発明のペレットと甲第8号証記載の「顆粒」とは上記顆粒の定義に照らし、0.1~1mmの範囲で一致する。
よって、甲第8号証にある「顆粒」と本件発明の「ペレット」とは、その構成及び大きさの点で同一である。
(3) 取消事由3(甲第10号証との同一)
審決は、本件発明は甲第10号証(特開昭52-134858号公報)に記載された発明であるとすることができない(審決書23頁末行ないし24頁1行)旨判断するが、誤りである。
<1> 審決は、乾燥ケーキは粉末をペレット状に形成したものと同一のものでない(審決書23頁17行、18行)旨認定するが、誤りである。
(a) まず、甲第10号証の実施例に記載された「乾燥ケーキ」と本件発明の「粉末をペレット状に形成したもの」の同一性を検討すること自体が誤りである。すなわち、甲第10号証の実施例では、「乾燥ケーキ約20gをボート(巾約5cm長さ約10cm)に取り、径約10cm長さ約100cmの還元器に入れ」(4頁右下欄12行ないし14行)とあり、乾燥ケーキをそのままの形状で還元するかのように誤解されがちであるが、還元をより効果的に行うため、乾燥ケーキはボートに収容される時点でその形状が壊され、より小さい薄片状の固体にすること、及びかかる固体をフレークと呼ぶことは、当業者に周知のことである。したがって、上記実施例において還元の対象となるのはフレークであって、乾燥ケーキそのものではないから、本件発明でいう「粉末をペレット状に形成したもの」は、フレークとその同一性が検討されるべきである。
(b) そして、本件発明でいう「粉末をペレット状に成形した」ものとフレークとの同一性を検討すると、本件発明では「ペレットの大きさとしては、通常0.1~200mm、好適には5~20mm程度である」(甲第2号証3欄30行、31行)とされている。これに対し、甲第10号証では「乾燥ケーキ約20gをボート(巾約5cm長さ約10cm)に取り」(4頁右下欄12行、13行)とされているにとどまり、その大きさが明記されているわけではないが、フレークとは薄片状の固体であり、その形状はペレットのそれと大差ない。
したがって、甲第10号証の実施例で還元の対象となるフレークと本件発明の「粉末をペレット状に成形した」ものとは実質的に同一のものである。
<2> また、審決は、甲第10号証には、ペレット状金属粉の粒子表面に酸化被膜を形成する旨の記載がない(審決書23頁13行ないし15行)旨認定するが、誤りである。
上記<1>のとおり、甲第10号証にある「乾燥ケーキ」を形成するフレークと本件発明の「ペレット」とは、実質的に同一のものであるところ、甲第10号証には、「還元後、還元器を冷却して、空気1%および窒素99%の混合ガスを還元器に導入し、約30分の間隔で、このガスの空気含有量を2倍づつにする。4~5時間後、空気だけに切り替え、還元器から磁性鉄粉を取り出すことができる。」(4頁右上欄末行ないし左下欄4行)、「その後還元器を冷却し室温まで下げて、空気1%及び窒素99%から成る混合ガスを送りこみ、約30分間隔毎に、この混合ガス中の空気の含有量を倍にする。約5時間後還元器には空気だけを流し、その後鉄粒子を取り出す。」(4頁右下欄16行ないし5頁左上欄1行)等と記載されているとおり、甲第10号証の技術では、空気及び窒素の混合ガスにより還元した水酸化鉄又は酸化鉄の粒子表面を酸化させ、酸化被膜を形成させているものである。
(4) 取消理由4(甲第11号証との同一及び容易推考)
審決は、本件発明は、甲第21号証の1、3(審決時甲第7号証の1)及び甲第21号証の2(審決時甲第7号証の2)に記載のものを考慮しても甲第11号証(審決時甲第6号証)に記載された発明であるとすることができず、また同号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない(審決書27頁8行ないし12行)旨判断するが、誤りである。
<1> 審決は、乾燥ケーキは粉末をペレット状に形成したものと同一のものでない(審決書25頁末行ないし26頁1行)旨認定するが、誤りである。
乾燥ケーキを形成するフレークは実質的にペレットと同一であることは、前記のとおりである。したがって、本件発明はオキシ水酸化鉄粉末をペレット状に成形したのち加熱還元して鉄を主体とするペレット状の金属粉を得、これを酸化処理するのに対し、甲第11号証(特開昭54-122664号公報)に記載のものはオキシ水酸化鉄の乾燥ケーキを加熱還元し、酸化処理する点(審決書25頁11行ないし16行)は、本件発明と甲第11号証に記載のものとが同一でないとする理由にはならない。
<2> また、審決は、甲第11号証に記載のものは、本件発明の前記知見と相違する技術的思想に基づくものであり、また甲第11号証には本件発明の構成要件である、オキシ水酸化鉄粉末をペレット状に成形したのち加熱還元して鉄を主体とするペレット状の金属粉を得、これを酸化処理する点が記載も示唆もされていない(審決書26頁16行ないし27頁1行)旨認定するが、誤りである。
(a) 審決が認定するように、甲第11号証記載の技術でも酸化処理は行われる(4頁右上欄13行ないし17行)。そして、甲第11号証の技術は、安定な磁気記録用強磁性体として充分使用に耐え得る金属粉末を得られるとの知見に基づく(甲第11号証3頁右上欄18行ないし左下欄8行)ものであるから、「緻密な酸化被膜を有してかつ磁性特性上も安定した磁性金属粉を得る」(甲第2号証2欄9行、10行)とする本件発明と、その知見を同じくするものである。
したがって、甲第11号証には、オキシ水酸化鉄粉末をペレット状に成形したのち加熱還元して鉄を主体とするペレット状の金属粉を得、これを酸化処理する点の示唆がされていることは明らかである。
(b) また、甲第21号証の1及び3(実験成績報告書及び実験成績証明書)並びに甲第21号証の2(測定結果報告書)によれば、本件発明のように原料をペレット化して金属磁性粉粉末を製造した場合と、フレーク状のままで製造した場合とでは、両者に本質的な差異はないことが分かる。
(c) よって、本件発明は、甲第11号証に記載のものに基づき容易に想到することができたものである。
第4 審決の取消事由に対する認否及び反論
1 認否
審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。2 反論
(1) 取消事由1(甲第3ないし第7号証に基づく容易推考)について
<1> 本件発明は、その特許請求の範囲に「磁性金属粉の製造法」と規定されているとおり、「製造法」の発明であり、その特許請求の範囲に規定されている各構成要件の工程配置の順序に重要な意味がある。そして、
(ⅰ)オキシ水酸化鉄ないし酸化鉄粉末をペレット状に成形(する工程)
(ⅱ)成形したのち加熱還元して鉄を主体とするペレット状の金属粉を得(る工程)
(ⅲ)これを液相ないし気相中で酸素ガス量を調節しながら酸化処理して上記ペレット状金属粉の粒子表面に酸化被膜を形成(する工程)
(ⅳ)その後所定の粒度に粉砕する(工程)
との工程の順序は、「加熱還元前にペレット化しておくと、これを加熱還元する過程で水分子や酸素原子の脱離によってペレット内部に微細な孔路が形成されるため、これを引き続く酸化工程に供したとき、上記孔路を介して内部まで均一に酸化することができ、酸化被膜の均一性に非常に好結果がもたらされる。」(甲第2号証3欄19行ないし25行)との新規かつ独創的な技術的知見に基づいて決定されたものである。
したがって、本件発明の上記技術的知見につき記載も示唆もされていない甲第3ないし7号証の従来技術に散在して開示されている各工程を寄せ集めることによって、本件発明を容易に想到できるものとすることはできない。
<2> 甲第3号証は、本件発明における(ⅰ)オキシ水酸化鉄ないし酸化物粉末をペレット状に成形(する工程)、(ⅱ)成形したのち加熱還元して鉄を主体とするペレット状の金属粉を得(る工程)、及び(ⅲ)これを酸化処理してペレット状金属粉の粒子表面に酸化被膜を形成(する工程)等の構成要件を、記載も示唆もしていない。したがって、この点の審決の判断に誤りはない。
<3>(a) 原告は、審決が甲第4号証にはペレット状の金属粉を得る点が記載も示唆もされていないと認定するのは誤りである旨主張する。
しかしながら、審決は、「(甲第4号証には)、酸化鉄原料を粉砕後成形し、加熱還元し、得られた還元鉄を粉砕して鉄粉を製造することが記載されているにすぎず」(審決書18頁1行ないし4行)と認定した上で、「ペレット状の金属粉を得、これを・・・酸素ガス量を調節しながら酸化処理して・・・酸化被膜を形成」する点が記載も示唆もされていない(審決書18頁5行ないし8行)と認定しているのであり、単に「ペレット状の金属粉を得」る点が記載も示唆もされていないと認定しているものではないから、原告の上記主張は、審決の意味を誤解するものである。
(b) 原告は、甲第4号証は、磁気特性上安定した磁性金属粉を得るとする点で、本件発明と技術課題を共通にし、かつ酸化鉄粒子を適当な形状に成形し、加熱還元した後に粉砕するという点で共通の技術思想を有するのであるから、甲第4号証は本件発明と課題、技術思想を異にするとした審決の認定は誤りである旨主張する。
しかしながら、本件発明における安定な磁気特性(飽和磁化量σsのばらつきが小さい)を得るという課題は、甲第4号証の課題とは全く異なる。甲第4号証の方法は、鉄鉱石等を粉砕後、粘結剤で成形し、還元し、得られた還元鉄を粉砕して鉄粉を製造するという、単なる鉄鉱石からの鉄粉の製鉄法である。
さらに、甲第4号証に記載のものは、還元後何らの酸化処理も行わず直ちに粉砕することを前提としており、甲第4号証は、本件発明とは逆に、酸化処理を行わないことを教示している。
したがって、甲第4号証は本件発明と共通の課題や技術思想を有するものではない。
<4> 原告は、甲第5、第6号証にはオキシ水酸化鉄ないし酸化鉄粉末をペレット状に成形したのち加熱還元して鉄を主体とするペレット状の金属粉を得ることが記載されている旨主張するが、原告の指摘する甲第5号証中の「原料の鉄を主体とする金属磁性粉末としては、・・・が挙げられるが、この発明方法では、これら粉末をペレット化したもの、すなわち造粒物でも支障なく用い得る。さらに、これらの原料は、通常オキシ水酸化鉄ないし酸化鉄を出発原料として加熱還元によって製造され、」(2頁右下欄12行ないし第3頁左上欄3行)との記載は、「加熱還元→原料粉末→ペレット化→酸化処理(すなわち、加熱還元後のペレット化)」を意味するものであり、ペレット状に成形した状態で加熱還元する点については記載も示唆もしていない。
(2) 取消事由2(甲第8号証との同一)について
<1>(a) 原告は、甲第8号証はペレット状の金属粉を酸化処理することを示唆している旨主張するが、甲第8号証には、単に、酸化鉄粉末を含む酸化鉄水和物粉末を水素ガスで還元して強磁性体材料を製造する方法が記載されているにすぎず、「粉末」が針状のα-FeOOHを製造する際に発生する可能性のある顆粒を含んでいてもよいことが示唆されているにすぎない(2頁左下欄末行ないし右下欄3行等)。そして、甲第8号証には、オキシ水酸化鉄ないし酸化鉄粉末をペレット状に成形した状態で還元することにより、水分子や酸素原子の脱離によってペレット内部に微細な孔路が形成されるため、これを引き続く酸化工程に供したとき、上記孔路を介してペレットの内部の粒子まで均一に酸化してばらつきが小さい均一な酸化被膜を形成できることについては、記載も示唆もされていない。
(b) また、原告は、顆粒とペレットとはその構成及び大きさの点で同一であり、甲第8号証には「ペレット状の金属粉」を用いることが示唆されている旨主張するが、甲第8号証の顆粒と本件発明のペレットではそもそも概念上の相違があり、その相違に基づく他の物理特性(例えば、常識的に考えられる強度(壊れ性)など)の相違があるものであり、これらを無視した原告の主張には理由がない。
<2> さらに、原告は、「粉砕」が金属粉末を製造する際に不可欠な工程であり、これは当業者にとって周知のことである旨主張するが、本件発明では粉砕をどの段階で行うかも構成上重要であり、甲第8号証には粉砕工程が記載されていないだけでなく、酸化処理後に粉砕する点についても記載されていないものである。
(3) 取消事由3(甲第10号証との同一)について
<1> 原告は、「乾燥ケーキ」と本件発明の「粉末をペレット状に成形した」ものの同一性を検討すること自体が誤りである旨主張するが、乾燥ケーキを壊すと小さい薄片状になるとなぜ断言できるのか自体が疑問である。
<2> また、原告は、金属粉の粒子表面に酸化被膜を形成することは甲第10号証で明らかにされており、「粉砕」は公知技術である旨主張するが、前記のとおり、本件発明では、粉砕をどの段階で行うかの点も重要であるところ、甲第10号証には、酸化処理後に粉砕する点が記載されていないものである。
<3> さらに、甲第10号証には、本件発明の上記技術的知見について記載がない以上、その「乾燥ケーキ」を本件発明の規定する(ⅰ)「ペレット状に成形」する工程に相当するものとみることはできない。そもそも該「乾燥ケーキ」は、「濾過により濾材面上に形成する固体堆積物」にすぎないのであるから、このような「固体堆積物」をもってあたかも本件発明で規定するような独立した「成形」工程の存在が示唆されているとみることは到底できない。
(4) 取消事由4(甲第11号証との同一及び容易推考)について
<1> 原告は、乾燥ケーキは粉末をペレット状に形成したものと同一のものでないとする審決の認定は誤りである旨主張するが、原告のフレークとペレットの同一性を検討すること自体に何の根拠もなく、審決の認定に誤りはない。
<2> 原告は、甲第11号証に記載されたものと本件発明とは共通の技術的思想を有している旨主張するが、甲第11号証の技術的思想・技術課題は、オキシ水酸化鉄等の表面にCo、Ni、Mn、Sbの化合物を付着等させてその後還元して合金とすることによって、形状の崩れ等が防止され、分散性の優れた、かつ発火性のおさえられた安定な、充分使用に耐えうる金属、合金粉末を得ることである(3頁右上欄19行ないし左下欄8行)。それに対し、本件発明の技術的思想・技術課題は、オキシ水酸化鉄ないし酸化鉄粉末をペレット状に成形したのち加熱還元し、ペレット状の金属粉を酸化処理することにより、加熱還元する過程で水分子や酸素原子の脱離によってペレット内部に微細な孔路が形成されるため、引き続く酸化工程に供したとき、孔路を介してペレットの内部の粒子まで均一に酸化することができ、酸化被膜の均一性がもたらされ緻密な酸化被膜が形成されるというものである。したがって、甲第11号証に記載されたものと本件発明とは異なった技術課題・技術的思想を有しているものであり、原告の主張には根拠がない。
<3> さらに、原告は、甲第11号証の実施例には本件発明の構成要件が示唆されている旨主張するが、甲第11号証には、本件発明の構成要件である、オキシ水酸化鉄粉末をペレット状に成形したのち加熱還元して鉄を主体とするペレット状の金属粉を得、これを酸化処理する点が記載も示唆もされていないのであるから、甲第11号証には本件発明の構成要件は全く示唆されておらず、甲第11号証に基づき本件発明を容易に想到し得たものとすることができないとの審決の判断に誤りはない。
<4> 原告は、甲第21号証の1ないし3に基づき、本件発明により製造された磁性金属粉と甲第11号証に記載された発明に基づき製造された磁性金属粉とは、磁性特性、耐候性の点で本質的な差異は認められないと主張するが、甲第21号証の1ないし3の実験に用いられたフレークと称するものは、甲第11号証に記載された発明により製造されたものではないから、この点の原告の主張は理由がない。
理由
1 本件発明の概要
本件発明の課題等についての本件公報の記載(審決書15頁16行ないし17頁13行)は、当事者間に争いがない。
この記載によれば、本件発明は、磁性金属粉の表面に酸化被膜を形成するに当たり、ペレット状の金属粉に還元過程で形成される微細な孔路を利用することにより、酸化反応を緩やかなものとして酸化工程の調整を容易にするとともに、ペレット状金属粉の内部まで均一に酸化処理を行うことができるようにしたものである。
2 取消事由1(甲第3ないし第7号証に基づく容易推考)について
(1) 甲第3号証について
<1> 甲第3号証の記載事項の認定(審決書7頁1行ないし10行)は当事者間に争いがなく、甲第3号証には、金属鉄を主成分とする針状晶金属磁性粒子粉末をその特性を損なわずに安定して空気中に取り出す試みがなされていることが記載されているが、甲第3号証のものは磁性金属粉の自然発火性を抑制する必要性を示していること(審決書17頁14行ないし19行)も、当事者間に争いがない。
<2> これらの記載によれば、甲第3号証には、本件発明の構成要件のうち、「酸化鉄粉末を」、「加熱還元して鉄を主体とする」、「金属粉を得(る)」ことが記載されているものである(原告も、甲第3号証に上記以外の点が記載又は示唆されていると主張するものではない。)。
(2) 甲第4号証について
<1> 甲第4号証の記載事項の認定(審決書7頁11行ないし8頁3行)は、当事者間に争いがなく、甲第4号証には、酸化鉄原料を粉砕後成形し、加熱還元し、得られた還元鉄を粉砕して鉄粉を製造することが記載されていること(審決書18頁1行ないし3行)、及び甲第4号証に記載のものは、酸化鉄原料粉砕後成形し加熱還元し得られた還元鉄を粉砕して、容易に粉砕され原料の粒度に類似の粒度の鉄粉を製造するというものであること(審決書18頁16行ないし20行)も当事者間に争いがない。
<2> 原告は、甲第4号証は、単に還元した原料の粉砕を容易にする鉄粉の製造法を提供することを課題とするのではなく、還元速度及び還元して得た鉄粉の安定性の面から鉄粉を製造する実用上有利な方法を提供するものであり、本件発明と技術思想を異にするものではない旨主張する。
甲第4号証によれば、同号証には、上記説示の記載に加え、次の記載があることが認められる。
「鉄鉱石等を還元性ガスで還元して鉄粉を製造する方法には、あらかじめ原料を粉砕しこれの加熱還元中に生成金属鉄の焼結により粘着しないような条件で還元する方法と原料をそのままか、あるいは粉砕後適当な形状に成形して還元し、還元後粉砕して所要の粒度にする方法の2つに大別される。この2つの方法を比較すると一般に還元性ガスで還元して製造した還元鉄は展性をもつため還元後の粉砕は還元前の粉砕より困難となるから粉砕の点では前者の方が有利であるが還元の点から見ると、前者は生成金属鉄の焼結を防ぐ還元温度を高くできず、従って還元速度が遅いこと及び還元し得た鉄粉が非常に酸化し易く不安定なため、安定化の処理を必要とし、後者にくらべ還元技術がむずかしい。従ってもし還元後の粉砕が容易に行えるならば後者の方法の方が実用上有利であって本発明の主眼もここにある。」(1頁左欄4行ないし19行)、
「また成形後還元する方法には成形原料に必要な強度を保たしめるために成形後焼結する方法と、製品の品質に影響を与えない適当な結合剤を加えて成形し焙焼せずに生のまま使用する方法が考えられる。いずれの方法でも原料鉱石にくらべると気孔率の大きい成形物が得られるので還元の点からは問題がないが焙焼する方法は・・・還元後の粉砕は焙焼せずに使用するものより困難になる。」(1頁右欄13行ないし21行)、
「以上の諸項をあわせて考えると鉄粉製造には原料を粉砕精選後、製品鉄粉の品質に影響を与えない結合剤を加えて成形し850℃付近の温度で還元性ガスにより還元し得られた還元鉄を粉砕することが実用上最も有利な方法と考えられる。」(1頁右欄下から8行ないし4行)
これらの記載によれば、甲第4号証には、鉄粉の製造において、鉄鉱石等の原料を粉砕して還元を行うと、還元して得た鉄粉が非常に酸化しやすく不安定であるところ、鉄鉱石等の原料を粉砕後に結合剤で成形して還元を行うと、気孔が形成されて十分な還元も行われ、しかも、鉄鉱石等の原料を成形したものに気孔が形成されたものであるため、還元終了後に空気に触れても酸化の進行が緩やかなものとなることが開示されていると認められる。
このように、甲第4号証は、鉄粉の製造において類似の粒度の鉄粉を得ることだけでなく、製造される鉄粉が空気中での酸化に対して安定であることも課題とするものであるから、本件発明と技術課題を共通にするものと認められる。
<3> そして、甲第7号証によれば、鉄は磁性体の代表的なものであることが認められる。
(3) 甲第5号証について
甲第5号証の記載事項の認定(審決書8頁4行ないし9頁6行)、及び甲第5号証に、酸素ガスを含有する不活性ガス雰囲気中もしくは減圧酸素雰囲気中で、鉄を主体とする金属磁性粉末の造粒物を酸化処理し、上記粉末の粒子表面に酸化被膜を形成することが記載されていること(審決書19頁2行ないし6行)は、当事者間に争いがない。
(4) 甲第3ないし第5号証からの容易推考
<1> 前記のように、甲第3号証には、本件発明の構成要件のうち、「酸化鉄粉末を」、「加熱還元して鉄を主体とする」、「金属粉を得(る)」ことが記載され、甲第4号証には、鉄粉の製造において、鉄鉱石等の原料粉砕後に結合剤で成形して還元を行うと、気孔が形成されて十分な還元が行われ、しかも、空気中での酸化の進行を緩やかなものとすることができることが開示されているものである。そして、前記のように、甲第5号証には、気相中で酸素ガスを調節しながら酸化処理して鉄を主体とする粉末粒子表面に酸化被膜を形成することにより、優れた耐蝕性と実用性に十分な磁気特性を示し。品質のばらつきも少ない磁性粉末を得ることが記載されているが、そのためには、金属磁牲粉末の形で酸化処理する方法だけでなく、その造粒物の形で酸化処理する方法があることも開示されている。しかも、甲第4号証に開示されている気孔が形成されて十分な還元が行われ、しかも、空気中での酸化の進行を緩やかなものにすることができることは、甲第5号証における酸化被膜を形成するための酸化処理においても、気孔の形成された還元後のペレット状の金属粉をそのまま利用することにより、必要な酸化処理を行うことができるとともに、酸化の進行が緩やかであるためその調整が容易であることを示唆しているものと認められる。
さらに、その後所定の粒度に粉砕することは、上記のようにペレット状の金属粉を利用して酸化被膜の形成を行う以上、当然のことであると認められる。
したがって、本件発明のように構成することは、当業者が容易に想到することができたものと認められる。
そして、その奏する効果も、本件発明の構成から予測することができる範囲内のものと認められる。
<2> 被告は、甲第4号証の方法は単なる鉄鉱石からの鉄粉の製鉄法にすぎず、本件発明における安定な磁気特性を得るという課題は、甲第4号証の課題とは全く異なる旨主張する。
しかしながら、本件発明における磁気特性のばらつきも、「酸化処理、とくに気相中での酸化処理においては、表面積の大きい非常に活性な金属粉を取り扱うことおよび粉末であるために反応熱が蓄積しやすいことにより、処理温度の調整が難しく、酸化条件を終始一定に保ちにくいこと」(甲第2号証2欄2行ないし6行)に起因しているものであり、本件発明と甲第4号証とは課題を共通にしているものであるから、課題の相違をいう被告の主張は採用することができないし、被告のその余の主張は、甲第4号証の記載事項を無視し、その開示する技術事項を狭く解釈するものであるから、採用することができない。
さらに、被告は、甲第4号証に記載のものは、還元後何らの酸化処理も行わず直ちに粉砕することを前提としており、本件発明とは逆に、酸化処理を行わないことを教示している旨主張するが、酸化被膜の形成のための酸化処理の点は甲第5号証に開示されているものであり、しかも、甲第4号証には、甲第4号証に記載の技術と甲第5号証に記載の酸化被膜を形成する技術とを組み合わせることができないことをうかがわせる記載はないから、この点の被告の主張は採用することができない。
<3> 以上によれば、本件発明は、甲第3ないし第5号証に基づき容易に想到することができたものというべきであり、これに反する審決の認定、判断は誤りである。
したがって、原告主張の取消事由1は理由がある。
3 結論
よって、原告の請求は理由があるから、その余の点について判断するまでもなく、これを認容することとし、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結の日 平成11年4月15日)
(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)
平成8年審判第19262号
審決
東京都千代田区丸の内1丁目2番1号
請求人 関東電化工業株式会社
東京都千代田区大手町2丁目2番1号 新大手町ビル206区 湯浅法律特許事務所
代理人弁理士 社本一夫
東京都千代田区大手町2丁目2番1号 新大手町ビル206区 湯浅・原法律特許事務所
代理人弁理士 栗田忠彦
東京都千代田区大手町2丁目2番1号 新大手町ビル206区 湯浅・原法律特許事務所
代理人弁理士 狩野剛志
大阪府茨木市丑寅1丁目1番88号
被請求人 日立マクセル株式会社
東京都千代田区大手町2丁目2番1号 新大手町ビルチング331
代理人弁理士 浅村皓
上記当事者間の特許第1883776号発明「磁性金属粉の製造法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
Ⅰ.手続の経緯・本件発明の要旨
本件特許第1883776号発明(以下、「本件発明」という。)は、昭和57年3月16日に出願され、平成4年11月10日に特公平4-70363号として出願公告され、平成6年11月10日にその特許権の設定の登録がなされたものであって、その発明の要旨は、明細書の記載からみて、特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。
「オキシ水酸化鉄ないし酸化鉄粉末をペレット状に成形したのち加熱還元して鉄を主体とするペレット状の金属粉を得、これを液相ないし気相中で酸素ガス量を調節しながら酸化処理して上記ペレット状金属粉の粒子表面に酸化被膜を形成し、その後所定の粒度に粉砕することを特徴とする磁性金属粉の製造法。」
Ⅱ.請求人の主張
これに対して、請求人は、本件特許は無効とすべきものであると主張し、その理由として、次の無効理由1及び2を挙げ、証拠として甲第1号証(特開昭53-114769号公報)、甲第2号証(特公昭37-16405号公報)、甲第3号証(特開昭56-55503号公報)、甲第4号証(特公昭56-28961号公報)、甲第5号証(化学工学協会編「新版化学工学辞典」(昭和49年5月30日)丸善株式会社p86)、甲第6号証(特開昭54-122664号公報)、甲第7号証の1(実験成績証明書及び実験成績報告書)、甲第7号証の2(測定結果報告書)、甲第8号証(化学大辞典編集委員会「化学大辞典4」(昭和56年10月15日)共立出版株式会社p308)、参考資料1(特開平2-119104号公報)、参考資料2(特開平2-192104号公報)及び参考資料3(特開平3-169001号公報)を提出している。
(1)無効理由1
本件発明は、本件の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証及び甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また甲第5号証によれば、本件の出願前に頒布された刊行物である特開昭50-93854号公報(特許異議申立人山岡秀年が特許異議の申立てにおいて提出した甲第1号証、以下「刊行物1」という)及び特開昭52-134858号公報(特許異議申立人山岡秀年が特許異議の申立てにおいて提出した甲第2号証、以下「刊行物2」という)に記載された発明であり、また甲第7号証の1及び甲第7号証の2によれば、本件の出願前に頒布された刊行物である甲第6号証に記載された発明であり、あるいは同号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号又は同法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。
(2)無効理由2
本件特許明細書は下記の点でその記載が不備であるから、本件特許は特許法第36条第4及び5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものである。
(ⅰ)ペレットの大きさは、還元反応及びその後の酸化反応の速度を律する重要な因子であるが、特許請求の範囲においてペレットの大きさが規定されていない。
(ⅱ)液相中での酸化処理に用いられる液相は金属粉に対して不活性でなければならないが、特許請求の範囲においてこの点が規定されていない。
(ⅲ)気相中での酸化処理においては不活性ガス又は真空雰囲気に酸素ガスを希釈したものを採用するが、特許請求の範囲においてこの点が規定されていない。
(ⅳ)実施例において酸化処理は酸素ガス濃度2000ppmの窒素ガスを80℃に予熱し流量24Nm/時間で導入して実施されたことが記載されているが合計通気時間が記載されておらず、当業者が容易に実施をすることができる程度に本件特許発明が記載されておらず、例えば実施例及び比較例において同一の通気時間が用いられたのか否か不明である。また比較例において最後に「粉砕」が行われたのか否か不明である。従って、実施例及び比較例の適切な評価及び対比がはなはだ妨げられる。
(ⅴ)本件特許発明によれば金属粒子に「緻密な酸化被膜」が形成されると記載されているが、これは抽象的な表現であり、適度な酸化の程度、あるいは酸化の過不足をどのように判定すべきかの具体的あるいは定量的な尺度が、明細書に明確に記載されていない。
Ⅲ.被請求人の主張
一方、被請求人は、請求人の主張に正当な理由はない旨答弁し、乙第1号証(特開昭56-23201号公報)及び乙第2号証(特開昭56-3605号公報)を提出している。
Ⅳ.当審の判断
そこで、請求人の主張する各理由について検討する。
1.無効理由1について
(1)甲第1号証には、「金属鉄を主成分とする針状晶金属磁性粒子粉末は、1μ以下の非常に微細な粒子である為、粒子表面の活性が大であり、よく知られている如く空気中に取り出すと急激な酸化と同時に発熱が生起するのである。・・・従来、金属鉄を主成分とする針状晶金属磁性粒子粉末をその特性を損わずに安定して空気中に取り出すための手段として各種の試みがなされており」(第2頁左下欄第18行~第3頁左上欄第10行、以下「摘示イ」という)との記載があり、
甲第2号証には、「高品位鉄鉱石またはそれに準ずる酸化鉄原料を粉砕後、炭化水素系粘結剤を加えて成形し、還元容器に収め密閉加熱後800~900℃の温度で還元性ガスを送って還元し、得られた還元鉄を粉砕する事を特徴とする鉄粉製造法。」(特許請求の範囲、以下「摘示ロ」という)、「このようにして得た還元鉄は原料の酸化鉄粒子が互に弱く結合した金属鉄粒子になっているので、スタンプミル、ハンマーミルなどで粗砕後ボールミルで粉砕すると容易に粉砕され原料の粒度に類似の粒度の鉄粉が得られるものである。」(第2頁左欄第9~13行、以下「摘示ハ」という)との記載があり、
甲第3号証には、「100~10000ppmの酸素ガスを含有して水蒸気濃度が5000ppm以下である不活性ガス雰囲気中もしくは10-2~10-4atmの減圧酸素雰囲気中で、200℃以下の反応温度にて、鉄を主体とする金属磁性粉末もしくはその造粒物を酸化処理し、上記粉末の粒子表面に酸化被膜を形成することを特徴とする耐蝕性に優れた金属磁性粉末の製造法。」(特許請求の範囲、以下「摘示ニ」という)、「この方法によれば、得られる磁性粉末は、粒子表面に形成される酸化被膜がFe3O4などの不動態的な組成を持ち、かつ緻密なものとなり、優れた耐蝕性と実用性に充分な磁気特性を示し、しかも品質のばらつきも少ないという特徴がある。」(第2頁左下欄第18行~右下欄第2行)、「原料の鉄を主体とする金属磁性粉末としては、・・・微細な金属鉄のみからなる粉末・・・が挙げられるが、この発明方法ではこれら粉末をペレット化したもの、すなわち造粒物でも支障なく用い得る。さらに、これらの原料は、通常オキシ水酸化鉄ないし酸化鉄を出発原料として加熱還元によって製造され」(第2頁右下欄第12行~第3頁左上欄第3行、以下「摘示ホ」という)との記載があり、
甲第4号証には、「金属粉末を、酸性基をもたない少なくとも一種の有機溶媒に懸濁し、これに酸素を含むガスを吹込むことによって、該金属粉末の表面に酸化物層を形成させることを特徴とする金属粉末の安定化方法。」(特許請求の範囲、以下「摘示ヘ」という)、「本発明の方法は、・・・金属粉末の表面に緻密な金属酸化物膜を形成させて金属粉末を安定化する方法であるが、この方法には金属粉末の処理量を多くしても粒子の凝集や発火は起こらないという大きな長所がある。」(第1頁第2欄第26~30行)、「本発明の方法は、(1)金属粉末の処理量を多くしても発火しない、(2)得らた金属粉末のHc、σr/σmが大きく、しかも、磁気特性のバラツキが少ない、という従来法にはない長所をもっている。」(第3頁第5欄第1~5行)との記載があり、
甲第5号証には、「顆粒 粉体を造粒した粒で、粒径がおよそ100~1000μのものをいう、主に医薬、食品などの場合に慣用的に使用される名称である。顆粒をつくる方法として混合型(→混合造粒)、解砕型(→解砕造粒)、噴霧乾燥型、押出し成型(→押出し造粒機)などの造粒方式が用いられている。」(第86頁右欄第13~19行、以下「摘示ト」という)との記載があり、
甲第6号証には、「すなわち、還元工程に入る前のオキシ水酸化鉄又は酸化鉄の表面にCo、Ni、Mn、Sbの一つ又は二つ以上の化合物を付着、吸着又は沈澱させて、その後水素などの還元性ガスで乾式還元して微細な鉄もしくは鉄を主体とした合金とすることによって、上記欠点である形状の崩れ、焼結が防止され、保持力(Hc)、角形比(σr/σs)、分散性の優れた、かつ発火性のおさえられた安定な、磁気記録用強磁性体として充分使用に耐えうる金属、合金粉末が得られる。」(第3頁右上欄第19行~左下欄第8行、以下「摘示チ」という)、「これらの処理がされたオキシ水酸化鉄あるいは酸化鉄は600℃を超えない温度、好ましくは500℃を超えない温度で水素雰囲気中において還元される。・・・還元後、還元器を冷却して、空気1%および窒素99%の混合ガスを還元器に導入し、約30分の間隔で、このガスの空気含有量を2倍ずつにする。4~5時間後、空気だけに切り換え、還元器から磁性鉄粉を取り出すことができる。そして、磁気テープ、その他の磁気記録媒体とすることができる。」(第4頁右上欄第4~19行、以下「摘示リ」という)、「実施例1 80gの針状α-FeOOHを約61の水にけんだくし、撹拌機で約10分よく分散させ、これに塩化ニッケル1M/l溶液50ccを滴下し、約10分間撹拌する。・・・その後濾過洗浄し湿α-FeOOHケーキを得、約150℃で一晩乾燥する。この乾燥ケーキ10gを取って350℃でH2流量3l/minで約7時間還元し、Ni含有率約5M%(対Fe)の磁性粉を得た。」(第4頁左下欄第12行~右下欄第2行、以下「摘示ヌ」という)との記載があり、
甲第7号証の1及び甲第7号証の2には、本件発明の実施例1に準拠して針状ゲーサイトを濾過ケーキ又は造粒品の形で加熱脱水、還元、安定化して得た磁性粉の磁気特性、かさ密度及び耐候性並びに該磁性粉をオーディオテープに使用したときの諸特性が記載され、
甲第8号証には、鉄が磁性体であることが記載され、
刊行物1には、「酸化鉄粉末及び/又は添加剤を含有する場合のある酸化鉄水和物粉末を水素を主として含有する還元剤ガスにより還元して少なくとも鉄を主成分とする針状粒子の粉末からなる強磁性体材料を製造するに当たり・・・強磁性体材料の製造方法」(特許請求の範囲、以下「摘示ル」という)、「第2図は還元速度が温度Tに左右されることを2種の異ったα-FeOOH粉末A及びBについて示す。・・・多数の実験において・・・粒径の篩分を用いる際、9m3/時のH2を常に用いた。・・・ここに『粉末』と称するのは本発明の範囲内で針状の不純物添加したα-FeOOHを製造する際に生ずる如き顆粒を含むものとする。第3図は粉末A及びBがもはや発火性でなくなった(40℃以下又はこれと等しい温度でN2/02により安定化された)後の上記粉末に関する還元温度Tの関数としての10-4A/mで示す保磁力Hc・・・を示す。」(第2頁左下欄第20行~右下欄第9行、以下「摘示ヲ」という)との記載があり、
また刊行物2には、「オキシ水酸化鉄、酸化鉄・・・にアルミニウム化合物・・・を付着又は吸着又は沈澱させる処理をした後、該処理物を乾燥し、次いで還元性ガス流下で200~600℃の温度で還元することを特徴とする鉄若しくは鉄を主成分とする磁性粉末を製造する方法。」(特許請求の範囲、以下「摘示ワ」という)、「本発明は上記欠点を解決するものである。すなわち、還元工程に入る前のオキシ水酸化鉄又は酸化鉄の表面にアルミニウム化合物・・・を付着、吸着又は沈澱させて、その後水素などの還元性ガスで乾式還元して微細な鉄もしくは鉄を主体とした合金とすることによって、上記欠点である形状の崩れ、焼結が防止され、保磁力(Hc)角形比(σr/σs)、分散性の優れた、かつ発火性のおさえられた安定な、磁気記録用強磁性体として充分使用に耐えうる金属、合金粉末が得られる。」(第3頁右上欄第11行~左下欄第1行)、「つづいて、これらの処理がされたオキシ水酸化鉄あるいは酸化鉄は600℃を超えない温度、好ましくは500℃を超えない温度で水素雰囲気中において還元される。・・・還元後、還元器を冷却して、空気1%および窒素99%の混合ガスを還元器に導入し、約30分の間隔で、このガスの空気含有量を2倍づつにする。4~5時間後、空気だけに切り替え、還元器から磁性鉄粉を取り出すことができる。」(第4頁右上欄第10行~左下欄第4行、以下「摘示カ」という)、「このようにして得たα-FeOOHの濾別後の湿つたケーキを・・・濾別、乾燥する。その後この乾燥ケーキ約20gをボート(巾約5cm長さ約10cm)に取り、径約10cm長さ約100cmの還元器に入れH2ガスを約3l/minで流し込み約400℃で約5時間還元して鉄とする。その後還元器を冷却し室温まで下げて、空気1%及び窒素99%から成る混合ガスを送りこみ、約30分間隔毎に、この混合ガス中の空気の含有量を倍にする。約5時間後還元器には空気だけを流し、その後鉄粒子を取り出す。このようにして得られた磁性鉄粉の電子顕微鏡写真を・・・示す。」(第4頁右下欄第3行目~第5頁左上欄第3行目、以下「摘示ヨ」という)との記載がある。
(2)そこで、本件発明と甲第1号証~甲第8号証、刊行物1及び2に記載されたものを対比する。
(イ)本件発明は、「磁性金属粉は、一般に耐食性に劣り、経日的に酸化劣化して磁気特性が著るしく低下する欠点があるため、この欠点を回避するために予め気相中ないし液相中で酸素ガス量を調節しながら適度に酸化処理して上記金属粉の表面に緻密な酸化被膜、主としてマグネタイト被膜を形成することがよく行なわれている。ところが、上記の酸化処理、とくに気相中での酸化処理においては、表面積の大きい非常に活性な金属粉を取り扱うことおよび粉末であるために反応熱が蓄積しやすいことにより、処理温度の調整が難しく、酸化条件を終始一定に保ちにくいことから、得られる磁性金属粉の磁気特性がばらつく欠点があった。」(本件公報第1頁第1欄第12行~第2欄第8行)という技術的背景のもとに、「この発明は、かかる問題がなく、緻密な酸化被膜を有してかつ磁気特性上も安定した磁性金属粉を得ることができる新規かつ有用な磁性金属粉の製造法を提供」する(本件公報第1頁第2欄第8~11行)ことを課題とし、「オキシ水酸化鉄ないし酸化鉄からなる粉末をペレツト状に成形したのち加熱還元して鉄を主体とするペレツト状の金属粉を得、これを液相ないし気相中で酸素ガス量を調節しながら酸化処理して上記ペレツト状金属粉の粒子表面に酸化被膜を形成し、その後ペレツト化前の所定の粒度に粉砕することにより、緻密な酸化被膜の形成と磁気特性の安定化とを共に達成できる」(本件公報第1頁第2欄第13行~第2頁第3欄第4行)、「加熱還元前にペレツト化しておくと、これを加熱還元する過程で水分子や酸素原子の脱離によってペレツト内部に微細な孔路が形成されるため、これを引き続く酸化工程に供したとき、上記孔路を介して内部まで均一に酸化することができ、酸化被膜の均一性に非常に好結果がもたらされる。」(本件公報第2頁第3欄第19~25行)との知見に基づきなされたもので、上記要旨記載の事項をその構成に欠くことができない事項とするものである。
摘示イによれば、甲第1号証には、金属鉄を主成分とする針状晶金属磁性粒子粉末をその特性を損わずに安定して空気中に取り出す試みがなされていることが記載されているが、甲第1号証に記載のものは磁性金属粉の自然発火性を抑制する必要性を示すにとどまり、甲第1号証には、本件発明の構成要件が記載も示唆もされていない。
また摘示ロによれば、甲第2号証には、酸化鉄原料を粉砕後成形し、加熱還元し、得られた還元鉄を粉砕して鉄粉を製造することが記載されているにすぎず、甲第2号証には、本件発明の構成要件である、「ペレット状の金属粉を得、これを液相ないし気相中で酸素ガス量を調節しながら酸化処理して上記ペレット状金属粉の粒子表面に酸化被膜を形成」する点が記載も示唆もされていない。
また甲第2号証に記載のものの課題は、粗砕後ボールミルで粉砕すると容易に粉砕され原料の粒度に類似の粒度の鉄粉を得ることにあるから(摘示ハ)、甲第2号証に記載のものは、緻密な酸化被膜を有してかつ磁気特性上も安定した磁性金属粉を得ることができる新規かつ有用な磁性金属粉の製造法を提供することを課題とする本件発明と課題を相違するものであり、また甲第2号証に記載のものは、酸化鉄原料を粉砕後成形し加熱還元し得られた還元鉄を粉砕して、容易に粉砕され原料の粒度に類似の粒度の鉄粉を製造するというものであり(摘示ロ、ハ)、本件発明の前記知見に基づく本件発明と技術思想を相違するものである。
また摘示ニ、ホによれば、甲第3号証には、酸素ガスを含有する不活性ガス雰囲気中もしくは減圧酸素雰囲気中で、鉄を主体とする金属磁性粉末の造粒物を酸化処理し、上記粉末の粒子表面に酸化被膜を形成することが記載され、また摘示ヘによれば、甲第4号証には、金属粉末を有機溶媒に懸濁し、これに酸素を含むガスを吹込み、該金属粉末の表面に酸化物層を形成させ金属粉末を安定化することが記載されているが、甲第3及び4号証の各々には、本件発明の構成要件である、「オキシ水酸化鉄ないし酸化鉄粉末をペレット状に成形したのち加熱還元して鉄を主体とするペレット状の金属粉を得」る点が記載も示唆もされていない。
そして、前記のとおり、甲第1号証には磁性金属粉の自然発火性を抑制する必要性が、また甲第8号証には、鉄が磁性体であることが記載されているにとどまり、また甲第2号証に記載のものは、本件発明と課題及び技術思想を相違するものである以上、甲第2号証及び甲第3号証に記載のものを寄せ集めたり、あるいは甲第2号証及び甲第4号証に記載のものを寄せ集めることによって本件発明を容易に想到できたものとすることができない。
そして、本件発明は前記要旨記載の事項を発明の構成に欠くことができない事項とすることにより明細書に記載のとおりの顕著な作用効果を奏するものと認められる。
したがって、本件発明は甲第1~4号証及び甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。
(ロ)次に、摘示ル、ヲによれば、刊行物1には、酸化鉄粉末及び/又は酸化鉄水和物粉末を水素を主として含有する還元剤ガスにより還元しN2/O2により安定化することにより少なくとも鉄を主成分とする針状粒子の粉末からなる強磁性体材料を製造すること及びα-FeOOH粉末について『粉末』は針状の不純物添加したα-FeOOHを製造する際に生ずる如き顆粒を含むものとすることが記載されており、また摘示トによれば、甲第5号証には、顆粒は粉体を造粒した粒であることが記載されている。
摘示ヲによれば、刊行物1に記載の酸化鉄粉末、酸化鉄水和物粉末は針状の不純物添加したα-FeOOHを製造する際に生ずる如き顆粒を含むものであるから、刊行物1に記載の酸化鉄粉末、酸化鉄水和物粉末は顆粒が混じった粉末又は顆粒からなる粉末の粉末形態をとることが認められる。
本件発明と刊行物1に記載のものを対比すると、両者は、オキシ水酸化鉄ないし酸化鉄粉末を加熱還元して鉄を主体とする金属粉を得、これを気相中で酸素ガス量を調節しながら酸化処理して磁性金属粉を製造する点で一致するが、本件発明はペレット状の金属粉を酸化処理した後所定の粒度に粉砕するのに対し、刊行物1にはこの点が記載されていない点で相違する。
さらに、前記のとおり刊行物1に記載のオキシ水酸化鉄ないし酸化鉄粉末は顆粒が混じった粉末又は顆粒からなる粉末であることが認められるから、甲第5号証に記載のものを考慮しても、刊行物1に記載のもので、オキシ水酸化鉄ないし酸化鉄粉末の粉末形態が顆粒が混じったものは加熱還元するオキシ水酸化鉄ないし酸化鉄粉末の粉末形態及び酸化処理する金属粉末の粉末形態がペレット状の本件発明と相違し、また刊行物1に記載のもので、オキシ水酸化鉄ないし酸化鉄粉末の粉末形態が顆粒からなるものは酸化処理する金属粉末の粉末形態がペレット状の本件発明と相違する。
以上のとおりであるから、甲第5号証に記載のものを考慮しても、本件発明は刊行物1に記載された発明であるとすることができない。
次に、摘示ワ、カ、ヨによれば、刊行物2には、オキシ水酸化鉄、酸化鉄を還元性ガス流下で還元し鉄若しくは鉄を主成分とする磁性粉末を製造すること及びα-FeOOHの乾燥ケーキを還元器に入れH2ガスを流し込み還元して鉄とし、その後還元器を冷却し室温まで下げて、空気及び窒素から成る混合ガスを送りこみ、その後鉄粒子を取り出し、磁性鉄粉を製造することことが記載されている。
本件発明と刊行物2に記載のものを対比すると、両者は、オキシ水酸化鉄ないし酸化鉄粉末を加熱還元して鉄を主体とする金属粉を得、これを気相中で酸素ガス量を調節しながら酸化処理して磁性金属粉を製造する点で一致するが、本件発明はオキシ水酸化鉄ないし酸化鉄粉末をペレット状に成形したのち加熱還元して鉄を主体とするペレット状の金属粉を得、これを酸化処理するのに対し、刊行物2に記載のものはオキシ水酸化鉄の乾燥ケーキを加熱還元し、酸化処理する点、及び本件発明はペレット状金属粉の粒子表面に酸化被膜を形成後所定の粒度に粉砕するのに対し、刊行物2にはこの点が記載されていない点で相違する。
そして、乾燥ケーキは濾過により濾材面上に形成する固体堆積物であるから、乾燥ケーキは粉末をペレット上に形成したものと同一のものでなく、本件発明は刊行物2に記載のものと前記のとおり相違する以上、本件発明は刊行物2に記載された発明であるとすることができない。
(ハ)次に、摘示リ、ヌによれば、甲第6号証には、α-FeOOH乾燥ケーキを350℃でH2流で還元し磁性粉を得ること及びオキシ水酸化鉄あるいは酸化鉄を水素雰囲気中において還元後、還元器を冷却して空気および窒素の混合ガスを還元器に導入し後還元器から磁性鉄粉を取り出すことが記載されており、また摘示チによれば、甲第6号証に記載のものは、還元工程に入る前のオキシ水酸化鉄又は酸化鉄の表面にCo、Ni、Mn、Sbの一つ又は二つ以上の化合物を付着、吸着又は沈澱させて、その後水素などの還元性ガスで乾式還元して微細な鉄もしくは鉄を主体とした合金とすることによって、形状の崩れ、焼結が防止され、保持力(Hc)、角形比(σr/σs)、分散性の優れた、かつ発火性のおさえられた安定な、磁気記録用強磁性体として充分使用に耐えうる金属、合金粉末が得られるとの知見に基づくものである。また甲第7号証の1及びに甲第7号証の2には、本件発明の実施例1に準拠して針状ゲーサイトを濾過ケーキの形で加熱脱水、還元、安定化して得た磁性粉の磁気特性、かさ密度及び耐候性並びに該磁性粉をオーディオテープに使用したときの諸特性が、同様にして針状ゲーサイトを造粒品の形で加熱脱水、還元、安定化して得た磁性粉のそれとほぼ同一であることが記載されている。
本件発明と甲第6号証に記載のものを対比すると、両者は、オキシ水酸化鉄粉末を加熱還元して鉄を主体とする金属粉を得、これを気相中で酸素ガス量を調節しながら酸化処理して磁性金属粉を製造する点で一致するが、本件発明はオキシ水酸化鉄粉末をペレット状に成形したのち加熱還元して鉄を主体とするペレット状の金属粉を得、これを酸化処理するのに対し、甲第6号証に記載のものはオキシ水酸化鉄の乾燥ケーキを加熱還元し、酸化処理する点、及び本件発明はペレット状金属粉の粒子表面に酸化被膜を形成後所定の粒度に粉砕するのに対し、甲第6号証にはこの点が記載されていない点で相違する。
そして、乾燥ケーキは粉末をペレット状に形成したものと同一のものでなく、本件発明は甲第6号証に記載のものと前記のとおり相違する以上、甲第7号証の1及びに甲第7号証の2に記載のものを考慮しても、本件発明は甲第6号証に記載された発明であるとすることができない。
また甲第6号証に記載のものは、前記のとおう、還元工程に入る前のオキシ水酸化鉄又は酸化鉄の表面にCo、Ni、Mn、Sbの一つ又は二つ以上の化合物を付着、吸着又は沈澱させて、その後水素などの還元性ガスで乾式還元して微細な鉄もしくは鉄を主体とした合金とすることによって、形状の崩れ、焼結が防止され、保持力(Hc)、角形比(σr/σs)、分散性の優れた、かつ発火性のおさえられた安定な、磁気記録用強磁性体として充分使用に耐えうる金属、合金粉末が得られるとの、本件発明の前記知見と相違する技術的思想に基づくものであり、また甲第6号証には本件発明の構成要件である、オキシ水酸化鉄粉末をペレット状に成形したのち加熱還元して鉄を主体とするペレット状の金属粉を得、これを酸化処理する点が記載も示唆もされていない以上、甲第6号証に記載のものに基づき本件発明を容易に想到しえたものとすることができない。
そして、本件発明は前記要旨記載の事項を発明の構成に欠くことができない事項とすることにより明細書に記載のとおりの顕著な作用効果を奏するものと認められる。
したがって、本件発明は、甲第7号証の1及びに甲第7号証の2に記載のものを考慮しても甲第6号証に記載された発明であるとすることができず、また同号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることができない。
2.無効理由2について
(1)前記Ⅱ.(2)(ⅰ)~(ⅲ)について本件発明は、前記要旨記載の事項を発明の構成に欠くことができない事項とすることにより明細書に記載のとおりの作用効果を奏するものである。 そして、発明の詳細な説明にペレットの大きさ、液相酸化に用いる液相の種類及び気相酸化における雰囲気の各々について記載されているが、発明の詳細な説明に記載のものは本件発明の具体的な態様を示すものであるので、ペレットの大きさ、液相酸化に用いる液相の種類及び気相酸化における雰囲気の各々について発明の詳細な説明に記載のものを特許請求の範囲に記載していないから明細書の記載が不備であるとすることができない。
(2)前記Ⅱ.(2)(ⅳ)について、実施例(本件公報第2頁第4欄第30行~第3頁第5欄第1行及び表)において酸化工程の合計通気時間が記載されていないが、酸化工程において所定の酸素ガス濃度の窒素ガスを予熱し、所定の流量導入することにより酸化処理を行いペレット状鉄粉末粒子表面に酸化被膜を形成し、これを粉砕した磁性金属粉が所定の効果を示すことが記載されている以上、酸化工程の合計通気時間の記載がないから本件発明が容易に実施しうる程度に記載されていないとすることができない。
また本件明細書に記載の比較例において粉砕が行われたのか否か示されておらず、また通気時間が記載されていないが、「比較例とは、ペレット化工程を省略した以外は実施例と同様に加熱還元及び酸化処理を行なって得た磁性金属粉・・・である。」(本件公報第2頁第4欄第42行~第3頁第5欄第1行)と比較例の磁性金属粉の製造条件が記載されているので、実施例及び比較例の評価及び対比ができないものとすることができない。
(3)前記Ⅱ.(2)(ⅴ)について、「緻密な酸化被膜」について酸化の程度の具体的若しくは定量的な尺度が明細書に記載されていないが、酸化処理について「気相中での強制酸化は、・・・また、液相中での強制酸化は、・・・酸化処理するという方法で行われる。」(本件公報第2頁第3欄第44行~第4欄第10行)、「実施例・・・還元炉が冷却した後、酸素ガス濃度2000ppmの・・・酸化処理を行ない、上記ペレット状鉄粉末の粒子表面に酸化被膜を形成した。」(本件公報第2頁第4欄第18~34行)との記載があり、緻密な酸化被膜を形成する酸化処理について明瞭にかつ具体的に記載され、また緻密な酸化被膜の形成によって、良好な耐食性が得られるとともに飽和磁化量のばらつきが小さくなり磁気特性の安定化の面でも好結果が得られるとの作用効果を奏することが記載されている(本件公報第3頁第6欄第1~5行)以上、「緻密な酸化被膜」について酸化の程度の具体的若しくは定量的な尺度が明細書に記載されていないから明細書の記載が不備であるとすることができない。
したがって、本件特許明細書は記載が不備であると認めることができない。
Ⅵ. まとめ
以上のとおりであるから、本件請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件特許を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
平成9年12月26日
審判長 特許庁審判官
特許庁審判官
特許庁審判官